Co-Creation 作り手と使い手が
ストーリーでつながる
「コンテクストデザイン」の
重要性

2020年2月18日
Industry Co-Creation (ICC) サミット FUKUOKA 2020

POWERED BY NewsPicks

レクサスの開発・製造から販売店にいたるまで、ありとあらゆる場面で貫かれる精神──私たちは、それを「CRAFTED」と呼んでいます。この思想は、必ずしもレクサスだけに用いられるものではありません。日本には、世界には、CRAFTEDを感じさせる“もの”があり、それは遠からずレクサスの美意識を映す鏡となって存在しています。

では、いかにして、そのような“もの”は生まれるのでしょうか。思想や美意識を根底に持ち、それを作り手と使い手が共に「価値」として感じながら、愛せる“もの”をつくるために必要な考えとは何でしょうか。

その一つに、「コンテクストデザイン」があります。デザイン・イノベーション・ファーム「Takram」のコンテクストデザイナーで、慶應義塾大学SFC特別招聘教授である渡邉康太郎さんは、以下のように定義しています。

コンテクストデザインは、「con- ともに」「texere 編む」デザイン活動である。個々人の解釈を、デザインが引き出し、デザインが表出させる活動だ。

言い換えれば、作り手と使い手が「ともに、編む」ことができるデザイン。それはまさに、レクサスが持つCRAFTEDとも親しい関係性にあるといえます。

2020年2月18日、レクサスはビジネスカンファレンス「Industry Co-Creation (ICC) サミット FUKUOKA 2020」に公式スポンサーとして参加。コンテクストデザインについて知り、掘り下げるためのセッションをサポートしました。

渡邉康太郎さんがモデレーターを務め、中川政七商店取締役の緒方恵さん、Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル) 代表の山下貴嗣さん、ファクトリエ代表の山田敏夫さんと、Lexus International レクサスブランドマネジメント部 Jブランディング室 室長の沖野和雄が参加。それぞれに意思あるものづくりを志向するブランドのキーパーソンが集い、語り合いました。

コンテクストデザインで、
消費者を創作者へ

渡邉:今日は各々の話に自分の解釈など交えつつ、「誤読歓迎、割り込み歓迎、混乱歓迎」のスタイルでいければと思っています。

さて、コンテクストデザインを企業活動に当てはめると、大切にすべきは「企業側の文脈を正しく伝える」ことにはありません。「con- ともに」「texere 編む」デザイン活動であるという定義からも見えるように、作り手の持つ「強い文脈」と、受け手が抱く「弱い文脈」を編み込んでいくことで、物語が生まれるようなものづくりの取り組みや、その現象を指します。ときに読み手が書き手となり、消費者を創作者へと変える。そのような考えにあります。

山下:Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)というクラフトチョコレートメーカーを営んでいますが、「Minimalはみんなで創る作品である」「ちいさな完成品よりも偉大なる創作物であり続けたい」と僕はよく言っています。チョコレート職人、サービサー、ビジネスチームだけでなく、その価値を知り、届けてくれるお客様もあわせて、みんなでMinimalの世界観を作り上げていくんです。作り手と買い手の境界線を曖昧にして一緒につくる仲間であると考えています。

沖野:まさにコンテクストデザインの実践例ですね。渡邉さんはお書きになった本でもヨーゼフ・ボイスの「社会彫刻」を引いていますが、レクサスも乗ることによって社会への態度が変わったというお客様の声を聞いたことがあります。たとえば、「横断歩道に歩行者を見かけたら先を譲ろう」といったように意識が変化したというのです。

実は、レクサスは乗り込むときの立ち振舞いが、美しくなるような工夫がなされています。乗り込むときの設計、アクセルワークの足さばき、顔がゆがまずに映る鏡面仕上げの塗装など、随所に設計から組み込んでいます。

渡邉:形にあわらわれない設計がなされていると。コンテクストデザインは、枯山水にも通ずる話だと思っています。枯山水は石庭に水面の波紋を「想像する」美です。最後の画竜点睛を、見る側に委ねている。一方、現代においてはデザイナーとユーザーに分断があるようなものが少なくありません。

コンテクストデザインにおけるデザイナーは、ユーザーのクリエイティビティを高めることこそが仕事。枯山水も見る人によって感じ方が違うように、積極的にユーザーが文脈を「誤読」することで、自分ごと化できます。

必要なのは「誤読」をし続けられること

渡邉:ケーススタディを一つ紹介しましょう。銀座にある5坪しかない本屋「森岡書店」では週替りで1種類だけの本を売るお店です。国際的なデザイン賞を複数受賞しており、特徴的な取り組みともいえるのですが、コンテクストデザインを考える要素が含まれています。

多くの場合、週替りで置かれる本の著者が「在廊」するように書店内にいて、書い手と話す姿が見られます。また、5坪という狭さもあって、来訪者同士での会話が触発される。話題性から海外からも人が訪れるスポットとなりました。店主の森岡督行さんが、書店のあり方を「誤読」し、私たちが書店に期待するものの価値を作り変えたことが、今日の姿につながっていると感じられます。

緒方:今の話を聞いてひとつお話できることがあります。中川政七商店はたくさんの商品を並べてスタッフを配置するという作りなので森岡書店さんとは逆の作り=通常の書店と近い一般的な作りのお店です。弊社が扱うのは主に日本の工芸品でして、手がかかっている分、品質は当然良いのですが、価格は大量生産品に比べると高価になります。そこで、商品の価値を伝えようという時に主なる武器は「接客」なのですが、それだけで伝わりきらないこともある。それを示すように、スタッフの声を聞くと「使ってもらえばわかるのに」というものが多く出た。「それならば」と思い、表参道の路面店を「全商品試せるお店」に変えてみたんです。レインコートを庭に持っていってホースで水をかけてみるなんてこともできるように。
するとどうなったかと言うと、お店の中のコミュニケーションの発生源及びその方向性が逆転したのです。これまではお客様の機微を見極めてスタッフからお声がけしに行くという流れが基本だったのですが、全て試せるという前提を事前に共有するだけで、「お客様からスタッフに声を掛ける」形でコミュニケーションが始まるようになったのです。
「これを試したいんですけど」という言葉で以て。

解釈をひとつ変えるだけでコミュニケーションも大きく変わる。接客時間も増えますが、その分だけ客単価が上がればいいですし、良さを知っていただく「種まき」の活動にもなる。というわけで、これも「お店のあり方」の誤読だったのかも、と思いました。

沖野:自動車ディーラーにも通ずるところがあります。店舗でも、コミュニケーションの方向へ進まないと、「そこで買う理由」がなくなっていくと考えています。

山下:Minimalで注視している指標のひとつが「社員販売の購入率」です。実は一時、カカオ農家からきちんと買いたくて、焦って店舗拡大を志向していた時期、社販の売上も落ちていたんです。モノづくりは正直ですね、量を造ることへの焦りが味に出た証左だったのでしょう。つまり、社員も美味しいと思えるものを作れていなかったのだと思います。

そこから、自分たちのプロダクトをしっかり体験することを研修にも組み込んでいます。毎月1回、3時間のアルバイト研修では、Minimalのチョコレートを食べ、感想を話し合う時間を設けています。自分の経験から語れるからこその強みが現れていますね。

山田:ただ、誤読をし続けるのは非常に難しいですね。ファクトリエでも山梨にコットンファームを設けたことがあったのですが、結果としては想定よりずっと少ない収穫しかあげられなかったということがありました。お客さまと種を植える時間を持てたことやものづくりについて考えるきっかけになったのはよかったのですが……ただ、そのように無駄に終わるかもしれずとも投資を続けないと、誤読されていく機会を持てないのかもしれないと思わされました。

「非効率」と「無駄」はちがう

渡邉:今のお話に関連して、私からひとつ質問をさせてください。みなさんが取り組んでいる「一見、非効率なこと」を教えていただきたいです。

緒方:店舗の発注業務を、アルゴリズムを組んで適正効率化しようとしたことがありますが、スタッフからブーイングが起きたんです。それぞれの店舗では新商品の良さを知り、意気込んで売ろうとしています。その商品がどれだけ売れるかを見極めて数付けをし、搬入されたダンボール箱を開け、商品を陳列するという瞬間が、モチベーションに大きく寄与していた。自動化しない、という決断は会社としてはある意味非効率ですが、継続することにした。また、欠品率が上がっている状態はスタッフのモチベーションも低い状態なのだろうと判断する側面もあることをこの一件以降考慮して、アルゴリズム発注は取りやめました。

間違えてはいけないのが、「無駄」と「効率が悪い」は違うということです。往々に効率が悪いことは面白いことだったりします。その効率の悪さは、感情を高め、組織を強くすることにもつながるのです。

沖野:レクサスでは日本展開をする際に、全国のトヨタ自動車の販売会社から、自主的にレクサスを売りたいと思えるディーラーを募ったことがあります。総数300会社4000店舗あるなかで、100社160店舗が手を挙げてくれた。店舗の改装投資もかけてもらい、レクサス販売店へと生まれ変わったわけです。新しいブランドだけに当初は赤字が続くことも確かにあったのですが、その当時の投資があったおかげで現在のレクサスがある。中途半端にやらない、大きく振り切ることも大切なのだと思わされます。

山下:ぼくは赤道直下のカカオ農園に年間で4ヶ月あまり行っているんです。電波もないようなところです。なぜそうするかといえば、僕らの事業としてはそこに未来があるからです。事業にとって「意味のない」非効率であれば無駄でしょう。ただ、「意味のある」非効率はビジョンや未来につながる。

僕はカカオ産地にこそチョコレートの未来があると思うので、農園を実際に訪れるのは続けます。今の時代に「新しいことをやろう」とすればたいていは非効率といわれるものです。それがミッションやビジョンにつながっているかを、セットで考えれば見方も変わります。

沖野:レクサスにおける、顔が歪まずに映るほどの鏡面仕上げは、たしかに非効率かもしれません。それは使う人が、朝乗るときに自分の顔がきれいに映ることで、心もきれいに保てるはずだという考えのもとですが、素人目にはわからないレベルにまで磨きあげている。ただ、それはきっかけに過ぎず、工場の職人から販売店に至るまで、言わば自分のプライドを磨いているようなものなのです。そのレベルを落としてはいけないと感じます。

渡邉:ブランドがどのような非効率を通して、自分たちを「自分たちたらしめる」か。それは、自らの価値を知るためにも必要だといえそうです。

“Feel First, Learn Later”の大切さ

山下:Minimalに毎週来ては、何枚も買ってくださるお客さまがいました。お話をしてみたら、高いランチを選ぶよりも、Minimalのチョコレートには喜びがあると。いまはコンビニでも100円出せばチョコレートは変えます。ただ、その方にとっては、100円と1500円という「経済軸による比べ方」ではなく、自分にとっての価値で比べているのですね。

緒方:その人にとっては、むしろ「安い」とさえ感じていそうです。

山下:僕らのチョコレートもそうですが、ストーリーがある商品は「誤読」が起きやすいのかもしれません。

渡邉:編集者の菅付雅信さんは「ライフスタイルが最後の商品である」とも言っていますね。

緒方:ただ、前提としてMinimalなら「美味しい」、ファクトリエなら「かっこいい」といった、商品そのものの価値が伴わなければいけないでしょう。ユーザーに、その基礎的な価値を感じてもらったうえで、さらにストーリーを感じてもらわなければ、ライフタイムバリュー(LTV)に影響が出てきてしまう。プロダクトがもたらす経験は、あくまで「答え合わせ」であるべきですね。

山下:「食」の分野は特に影響が出やすいですね。僕は1階、2階と呼んでいますが、食にとっての土台となる1階部分は美味しさです。ところが、食は差別化要因の2階に力を入れすぎるところがある。原宿にある飲食店の流行り廃りを継続的にウォッチしていると、その現象はとてもわかりやすいです。1階がなければ2階はありえません。まずは食べて美味しいかどうか。その上で、その美味しさの解説があり、「頭」でより美味しく感じるのです。

渡邉:僕はそのような階層構造を、“Feel First, Learn Later”と呼んでいます。まずは五感を働かせ、その後でストーリーの啓蒙があるという順序です。

沖野:まずは感情がゆさぶられないと、「誤読」する脳が働かないのでしょうね。

渡邉:脳がどのように情報を処理するかといえば、やはり感情が先で、その後で数字などの情報になっていきます。

たとえば、大型台風の「ハリケーン・カトリーナ」を報じるニュースで、「全世界で6000人近くの人が被害にあい、そのうち1000人前後が亡くなった」と聞くよりも、「ニューオリンズのとある町で親子が濁流に飲み込まれ、最後まで手を握っていた母が手を離してしまった。最後に目に入ったのは息子の悲しい表情だった」というエピソードを聞くほうが悲しみは大きく感じる。大きな数字よりも具体的なエピソードが心に刺さります。これは、人間が感情で生きることから逃れられないということを表しています。

緒方:まっとうなことだけではものづくりを通じて感情は動きません。感情を動かすには2種類の方向性があります。「真摯な仕事ぶりを積み上げて得る信頼」と「ある種の狂気を帯びるほどのこだわり」ではないでしょうか。後者は、山下さんのカカオ農園探訪や、山田さんが縫製工場へ通うのも、その一つ。そして、今後はそれがますます重要になってきますし、ブランド価値を高め、社内の内外に理解してもらうためにも必要です。

コンテクストデザインの文脈で話せば、それが理解されないと、スタッフが「語り部」にならず、誤読を起こしにくい。スタッフも“フィールファースト、ラーンレイター”にするには、どのようにすべきかを考えるのが、経営層の非効率との向き合いかといえそうです。

山下:Minimalはレクサスと、カップル向けのワークショップのコラボレーションの企画をさせていただきました。 レクサスに試乗し、僕らの店舗へ行って、チョコレート造りを体験してチョコレートを味わってもらうんです。そこで、レクサスのあるディーラーさんに「レクサスの良さはどうすればわかりますか」と聞いてみました。答えが「乗ること」に尽きるといいます。

その方は、左回りだけで都内の道を30分でまわれる試乗コースを、独自に調べて作っていました。一度でも乗り心地の違いを感じれば変わる、と信じているからこそでしょう。

沖野:ありがとうございます。まさに「誤読」のひとつだと思います。

渡邉:山下さんがレクサスについて語る、というのが、まさに「誤読」ですよね。ブランドのストーリーを、自分を主語として語れるようになる。作り手と受け手の文脈が相互に編み込まれた結果と感じます。

※コロナウィルス感染拡大の影響により中止となりました。

CRAFTED SALON TOP