運転が好き。走ることが好き。だから楽しいクルマをつくりたかった。IS F 開発責任者 矢口 幸彦

Vol.4「クルマの素性は走った『道』で決まる」

前回お話したブレーキの冷却性を高める工夫ですが、フロントブレーキはフォグランプ横の専用のブレーキエアダクトから空気を送り込むことで、効率よく冷却性を高めています。

このエアダクトの開口面積はISの約3倍で、大人の拳が入るくらい大きいんですよ。

実車でぜひ確認してみてくださいね。

まず東富士のテストコースだけでなく、富士スピードウェイをホームコースとして選定

「クルマの素性は走った“道”で決まる」と思います。

IS Fにとって、ホームコースに富士スピードウェイ(FSW)を追加するという意味は大変大きいですね。
どういう素性のクルマに仕上がるのかは、どういうシチュエーションで熟成してきたクルマか、ということが重要だと思うんです。

つまり、ホームコースでの熟成のプロセス、そのクルマの走ってきた「道」で決まる、と思っています。

IS Fの「F」は、FSW・東富士テストコースの「F」なんです。

FSWでの走り込みは、今までのテストコースとは違う環境での熟成ですから、従来にない課題も多く見つけられることもあって、最も重要視してきました。

まずひとつのサーキットを走りこむことで多くの課題を克服し、そのクルマのポテンシャルを極限で熟成させることになります。

あとは、「課外授業」のように、走りのパターン、それこそ「道」を変化させていけばいいのですから。

走行データを一から解析して造り上げたサスペンション

IS Fはサーキットだけでなく、いろいろなシチュエーションでテストし、「多くの人に楽しんでもらえるクルマ」を目指しています。

FSWだけでなく、世界各地のサーキットで無理難題を克服していますし、テストドライバーだけでなく、エンジニア自らも走っていますから、「限られた人だけじゃなくて、多くの人に楽しんでもらいたい」ことを確認しながら開発してきたとも思っています。

たとえばサーキット走行に合わせた硬めのサスペンション設定では、街中を走行したときに乗り心地が悪くなってしまう。

けれども、サーキット走行では、高速・高Gであってもタイヤが路面を離れることがない、高い路面追随性を持つ必要があります。

サスペンションを硬くすることだけでなく、高速・高Gでも粘り強くグリップする柔軟な走行性能を造り上げるために、基本設計はもとより、サスペンションの間接にあたるブッシュ特性においてもひとつひとつ煮詰めていって、すべて新設計しています。

この為にテスト走行では、サーキットでより正確な車両挙動を把握するために、GTレースで使用しているデータロガーで走行データをモニタリングしています。

もちろんサーキット走行と街中走行ではタイヤに求められる性能も違ってきますから、相反する性能を両立させるためにIS F専用の扁平タイヤも新開発しています。

ホイールは鍛造アルミホイールで軽量化を図っていますし、鍛造でしかできないデザインに作り込んでいます。
空力特性を高めるために工夫もしているんですよ。何だと思いますか?

これは写真だけでは判り辛いので、ぜひ実物をじっくり見てほしいですね。

「仕事と思ったらできなかった」ハードな開発

IS Fは企画提案の成り立ちからも分かるように、いってみれば「特別なスタート」をしたクルマですから、メインのプロジェクトの様に多くのメンバーではなく、小さなチームをベースに開発してきました。

また、IS Fでは、今までと違った新しい協力体制での開発も行っています。

例えば、エンジンとミッションの統合制御の開発では、普通のプロジェクトであれば別々に開発を進めるところを、エンジン担当者とミッション担当者が一緒に試作車に試乗して調整していった。
他のプロジェクトでは、まず見られない光景でしょうね。

開発当初は、特に人数も少なくハードワークの連続でした。

IS Fはサーキット走行も想定していましたから、それに見合う信頼性を確立しなければなりませんでした。
200km/hオーバーの超高速域でクルマを自在にコントロールできる足回りやブレーキの耐久性、加減速G、横Gにおけるオイルや燃料供給への影響など、一般の道では考えられない特殊な環境下での評価を繰り返しました。

前例がなく、初めて挑戦するようなことばかりで、余計に負担は大きかったですね。

エンジニアのひとりがしみじみ言ったものです。
「仕事と思ったら、ここまでやってない」と。

けれども、そんなハードな開発にも、ありがたいことに、みんな仕事というよりは遊び?の延長で関わってくれた。

それは実に効率のいい仕事だということも解りました。
好きなことなら、放っておいても仕事してくれますからね(笑)。