運転が好き。走ることが好き。だから楽しいクルマをつくりたかった。IS F 開発責任者 矢口 幸彦

Vol.03「二人からの挑戦」

このIS Fというクルマは、クルマを開発するエンジニアなら誰でも考える、「自分が本当に欲しいと思えるクルマを創りたい」を「実際に創ってしまった」と言うことなのです。

IS Fの開発は、プロジェクトのスタート承認を得ることから始めました。ですから、プロジェクトの承認にたどり着くまでにも、いろいろと困難がありました。

いままで経験したことのない未体験ゾーンでの開発課題の連続

IS F開発は最初、いってしまえば、私の想いの具現化から始まりました。

考えているだけでは面白いもの、個性的なものは理解してはもらえないと、もう一人のエンジニアとたった二人で、楽しく走れるクルマってこんなクルマかなと、実際に製作してアピールを始めてみたのがきっかけなんです。

2003年の初めから正式に提案活動を開始して、その暮れから設計を始めました。先代のIS300をベースに、「一番でかいエンジンは?」って TRDにお願いして、レース用の5.2LV8エンジンブロックを入手し、強引にエンジンルームに搭載した試作車が、2004年始めに完成しました。

内・外装もこだわってカーボンを沢山使ったりして、全てに手をいれたので、実際には売れそうにない高価なクルマができましたよ (笑) 。

このクルマは簡単に250km/hを超えるようなクルマですからね。実際にサーキット等でテストを繰り返していくと、今までに経験したことがないような課題や、こんなはずではなかったといった事態が山ほど発生する、未体験ゾーンに飛び込んでしまいました。

例えば、空力の開発ひとつとってみても、IS Fでは空気抵抗低減しながら最適なダウンフォースを獲得するために、表面だけではわからない工夫をいろいろと凝らしています。

エンジンアンダーカバーには、超高速域でのドライビング時には200kgを越える負荷がかかりますからね。普通の素材では変形してしまって、特性が 変わってしまうので、素材にレーシングカーの外板で使用される軽量・高剛性のグラスファイバーを混ぜて強度を向上したりしているんです。

リアスポイラーも専用で、最後の切り上げの角のアールをぴんぴんに仕上げることによって空力をあげるといった、かなり細かいところまで空力を練った りしています。デザインとの一体感を追求してリアバンパーの下の出口のところに空力パーツを追加するなど、ほかにもこだわったポイントがたくさんあります。

例えば、フロントバンパーにはサーキットでの連続走行を視野に入れた耐フェード対策として、ブレーキの冷却性を高める工夫をしています。

ぜひじっくり見てほしいですね。

このクルマに、周囲の人間に乗ってもらうと、「もっといいクルマにしよう!」とだんだん盛り上がってきて、ひとつのプロジェクトにまでなってきた。というのも、各部門のエンジニアたちも乗ってしまうと、やっぱりクルマ好きな人が多いから、本気で協力してくれるんですよね。

役員を巻き込んでプロジェクトが本格始動

次のステップとして、プロジェクトの正式な承認をもらうために、役員にも乗ってもらおうと、試乗会へクルマを持ち込むことにしたんです。

役員からも「今までのクルマと違っていて、おもしろい」という反応は、直にかえってきました。でも、「開発をOKすることとは別だよ」って言うおまけもついてましたけど(笑)。

でも、何より、クルマから降りたときにみんなにこにこしていたんです。それって、一番大切なことですよね。クルマが好きな人は、走りが楽しめるクルマに乗れば自然に口元がほころぶし、気持ちがうきうきする。

「よし!って手応えを感じました。」

プロジェクトのGOサインが出ていない状態でしたが、試乗会では多くの試乗車の中で常に、試乗人数ナンバーワンでしたよ。そうして試乗会を重ねるごとに役員からの認知度が上がって、「もっとこうしよう」「まだまだ良くなる」と発破をかけてもらえるまでになっていった。

改良した試作車を製作して試乗会に出す様になるころには、試乗する役員の列ができて試作車が一台では足りなくなり、もう一台製作したほどでした。

そうしてだんだん周りに認めてもらった、というか認めさせるような雰囲気づくりに励んでいたわけです(笑)。

それが奏功して、最終的なトップ判断も、どさくさに紛れて通してもらった感じです(笑)。