
IS F開発責任者の矢口幸彦です。
私のこだわり、そしてエンジニアたちのこだわりが至るところに詰め込まれたIS Fという車について、じっくりと語っていきたいと思います。
私はずっと振動騒音を担当してきました。
世界的に「静かである」と評価を得た初代&2代目レクサスLSでは振動騒音の低減開発に責任者として携わってきました。
いわば振動騒音は私の原点とも言えます。
私は「静粛性」を追求することこそ、レクサスの最大の武器となると考えていました。これが達成できれば、ライバルとなる欧州車に対して、今までとは違った方向から対抗できると思っていましたから。
車のボディは、例えるなら振動騒音を拡張させるスピーカーのようなもの。エンジンやプロペラシャフトなどが発する振動や音をボディが媒介し、車室内へと伝えてしまいます。

しかし、振動騒音を抑えるためのパーツは、クルマにとって、とてもお荷物な部分。
なぜかというと、音を小さく抑えるために吸音材をクルマに張り巡らすことで、車体が重くなってしまうからなんです。
そこで私は、吸音材を駆使するのではなく、ボディ単体が持つ音の特性を変化させてやろうと苦心しました。 エンジンやプロペラシャフトそのものが発する音を静めることはもちろん、ボディ骨格そのものをしっかりとさせ、スピーカー本体ともいえるボディパネルの震えをいかに低減させるかということが課題となりました。
そうした問題をクリアすることができたレクサスLSでは、吸音材を最小限で活用し、軽量化も実現した「静粛性の高いクルマ」とすることができました。

振動騒音を追及してきた私にとって、IS Fの開発においても「静粛性」は重要なテーマでした。
「走りにこだわったIS Fなのに、静粛性が関係あるの?」と、皆さんは疑問を持つことでしょう。
クルマにとって「静粛性」が重要であることは理解できても、スポーツカーにはあまり求められませんよね。
けれども、走行時の振動騒音を低減させれば、エンジン音や呼気音をきちんと聴かせることができ、クルマが発する「音」の迫力もダイレクトに感じられます。
我々は“音のクリーニング”と呼んでいるんですが、IS Fでは不必要な音を消し聴かせたい音のみを残して、聴覚に訴えるサウンドづくりをしています。ここに、レクサスの「静粛性」を追及することによって培ったノウハウを投入しているんです。
エンジンのパワーを感じさせる力強い低音は残しながらも、会話で邪魔になる周波数帯の音を抑えることで、サーキットで走っていても助手席の方と会話が楽しめる。
IS Fはスポーツカーでありながら、同乗者の快適性にもこだわったクルマなんです。
そのほかにも、デュアルインテークで回転域に応じて心地よい音を聴かせたり、エンジン始動時や止める時の音などにも、こだわりを持っています。
例えば、エキゾーストディフューザーとマフラーの間には、あえて空間をつくっています。
この2つの部品はつなげるのが普通ですし、その方が自然だと思うでしょう?
それも音へのこだわりの一つなのです。
その理由については、また次回にでもお話しましょう。

