開発者メッセージ | IS F 開発責任者 矢口 幸彦
走りを愛するエンジニアたちの純粋な情熱が生み出した
スポーツとして走りを楽しむサーキットから、プレミアムカーとしてストリートまで。すべての瞬間をときめきで満たします。
IS F 開発責任者 矢口 幸彦 (やぐち ゆきひこ)
運転が好き。走ることが好き。
だから楽しいクルマを作りたかった。
初代、2代目のLS振動騒音開発を担当した後、車両性能開発のまとめ役に。レクサスブランド戦略、レクサスセンターの立ち上げに参加。現在、開発責任者として自ら提案したIS Fの開発を手掛ける。


Message
IS Fの開発は、「自分が本当に欲しいと思えるクルマを創りたい」というエンジニアとしての純粋な想いからスタートしました。そして、クルマを操る楽しさを知り尽くしたエンジニアが集まり、遊び心でISをベースに試作車を創ったのが、IS Fのそもそもの始まりでした。
そんなIS Fの開発で私が追求したのは、「運転する楽しさ」です。「運転する楽しさ」とは、ドライバーとクルマが一体感を持って意志を伝え合い、どれだけ自在に操れる悦びを引き出せるかという点にあります。しかも、その楽しさを全てのシーンでダイレクトに、そしてシームレスに味わえることを目指しました。
運転する楽しさを具体的に突き詰めていくと、3つの要素にたどり着きます。それは「レスポンス」「サウンド」「伸び感」という、数値で表すことのできない性能です。この感性に訴えかける部分こそ、運転する楽しさを決定づけるキーポイントであると私は考えています。極端に言ってしまえば、この要素さえ満たしていればドライバーは、
どんなクルマであっても運転の楽しさを手に入れることができるのです。だからこそIS Fでは、この3つに関わる要素にこだわりを注ぎ込みました。
また、徹底的に走りを鍛え、運転する楽しさを磨くために世界各国のサーキットを駆け巡りました。ただし、それはサーキットを速く走るという目的のためだけではありません。あくまでもクルマの楽しさを安全に究極まで楽しむ公道の延長線としてサーキットでの走行テストを行いました。「街乗りとサーキット走行を両立する」、それもIS Fのこだわりです。
IS Fは、クルマの根源的な魅力である運転の楽しさを極限まで追求したクルマです。そして何より、クルマのつくり手である私たちが楽しく、幸せを感じながら開発したことによって、誰がステアリングを握っても楽しいと感じていただけるクルマに仕上げることができたと思います。このIS Fを通して皆様がレクサスを、そしてクルマの存在そのものをもっと好きになっていただけたら、開発者としてこれ以上の悦びはありません。
楽しさを極めるもの-“F”
求めたのは、レーシングドライバーがサーキットを走らせても、一般のドライバーが市街地で乗っても味わえる「運転の楽しさ」です。そのためIS Fでは、あらゆるシーンにおいて楽しさを瞬時に感じられる“瞬感”という価値とともに、乗り手とクルマの一体感を大切にした“ダイレクト感”にこだわりました。
それらを実現するためには、3つの要素*1を高める必要がありました。操作に対しての研ぎ澄まされた「レスポンス」、エンジン回転上昇に合わせて変化し、車との一体感を高める「サウンド」、超高回転域まで一気に上り詰める気持ちのよい「伸び感」。ドライバーの心をいつまでも刺激し続ける、人間の感性に応える性能に磨きをかけたクルマ。「走る楽しさ」にこだわったパフォーマンスを追求したクルマ、それがIS Fなのです。

クルマの楽しさを熟知するメンバーが集結
「理屈抜きに楽しく、操る悦びのあるクルマを創造したい」。
そんな思いから2人だけでチャレンジした1台の試作車、それがIS Fの開発の始まりです。純粋にクルマが好きで、楽しいクルマをつくりたいという思いは、やがて多くのエンジニアたちを触発し、レクサスの開発体制さえも動かすことになります。そして、クルマを操る楽しさを熟知した内外のエンジニアの協力を得て、独立した“F”専用開発チームを構築。比類なきテクノロジーとレクサススポーツへの情熱を1台に注ぎ込みました。

楽しさの極致を求め、世界のサーキットへ
開発責任者が設けた、その感性評価の基準をクリアすべく、サーキットにおいて「走る・曲がる・止まる」という基本性能のブラッシュアップに全力を投入。特に、ホームコースである富士スピードウェイでは走り込みを重ねました。さらに、楽しさを追い求める情熱は、国内のみならずに世界にまで拡大。「クルマの性格は走った道が決める」という概念のもと、IS Fとともに世界9ヶ所のサーキットを駆けめぐり、それぞれのコース特性を駆使することでクルマの総合力を高めていきました。

IS F開発責任者の矢口幸彦です。
私のこだわり、そしてエンジニアたちのこだわりが至るところに詰め込まれたIS Fという車について、じっくりと語っていきたいと思います。
車のボディは音を拡張させるスピーカー
私はずっと振動騒音を担当してきました。世界的に「静かである」と評価を得た初代&2代目レクサスLSでは振動騒音の低減開発に責任者として携わってきました。いわば振動騒音は私の原点とも言えます。私は「静粛性」を追求することこそ、レクサスの最大の武器となると考えていました。これが達成できれば、ライバルとなる欧州車に対して、今までとは違った方向から対抗できると思っていましたから。
車のボディは、例えるなら振動騒音を拡張させるスピーカーのようなもの。エンジンやプロペラシャフトなどが発する振動や音をボディが媒介し、車室内へと伝えてしまいます。しかし、振動騒音を抑えるためのパーツは、クルマにとって、とてもお荷物な部分。なぜかというと、音を小さく抑えるために吸音材をクルマに張り巡らすことで、車体が重くなってしまうからなんです。
そこで私は、吸音材を駆使するのではなく、ボディ単体が持つ音の特性を変化させてやろうと苦心しました。エンジンやプロペラシャフトそのものが発する音を静めることはもちろん、ボディ骨格そのものをしっかりとさせ、スピーカー本体ともいえるボディパネルの震えをいかに低減させるかということが課題となりました。そうした問題をクリアすることができたレクサスLSでは、吸音材を最小限で活用し、軽量化も実現した「静粛性の高いクルマ」とすることができました。

“音のクリーニング”が走りを演出するキーワード
振動騒音を追及してきた私にとって、IS Fの開発においても「静粛性」は重要なテーマでした。
「走りにこだわったIS Fなのに、静粛性が関係あるの?」と、皆さんは疑問を持つことでしょう。クルマにとって「静粛性」が重要であることは理解できても、スポーツカーにはあまり求められませんよね。けれども、走行時の振動騒音を低減させれば、エンジン音や呼気音をきちんと聴かせることができ、クルマが発する「音」の迫力もダイレクトに感じられます。我々は“音のクリーニング”と呼んでいるんですが、IS Fでは不必要な音を消し聴かせたい音のみを残して、聴覚に訴えるサウンドづくりをしています。ここに、レクサスの「静粛性」を追及することによって培ったノウハウを投入しているんです。エンジンのパワーを感じさせる力強い低音は残しながらも、会話で邪魔になる周波数帯の音を抑えることで、サーキットで走っていても助手席の方と会話が楽しめる。IS Fはスポーツカーでありながら、同乗者の快適性にもこだわったクルマなんです。
そのほかにも、デュアルインテークで回転域に応じて心地よい音を聴かせたり、エンジン始動時や止める時の音などにも、こだわりを持っています。例えば、エキゾーストディフューザーとマフラーの間には、あえて空間をつくっています。この2つの部品はつなげるのが普通ですし、その方が自然だと思うでしょう?それも音へのこだわりの一つなのです。その理由については、また次回にでもお話しましょう。

まずは、前回にお話したエキゾーストディフューザーとマフラーの間に作った空間について、タネ明かしをしたいと思います。エキゾーストディフューザーとマフラーの間にあえて空間を設けることで、排気ガスの流れをコントロールして、
低音の聴かせたい音が響く様な仕掛けがしてあるんです。それをあえてやった理由は、アイドリング域での重低音を発生させることで迫力を増すためなんですよ。運転の楽しみを全身で体感してもらうために、音だけでなく、ATにもこだわりがあります。
あえて「変速ショック」を感じさせる
街中ではショックの無い滑らかなシフト制御が求められますが、サーキットの中で走るなら、きっと物足りなく感じるでしょう。ですから、あえて従来のATでは考えられない変速時のショックを「感じさせる」シフト制御にこだわったんです。トルクセンサーを搭載した車両でドライブし、心地よい変速ショックの数値化を図る評価テストを実施し、そのデータを元に最適なギアを選び、加変速を行う楽しさを創出するシフト制御を行っています。
なぜ、こんな所にこだわったのか?それは、一台のレーシングカーとの出会いがあったからなのです。IS Fの開発に入るずっと前、全日本ツーリングカー選手権 (JTCC) を戦っていたレーシングカーに乗る機会がありました。そこで得られたクルマとの一体感や音は、私にとって忘れることができないほど衝撃的なものだったんです。ステアリングやスロットル、そしてすこぶるダイレクトなブレーキで、吸排気音も振動を含めて直接身体に響いてくる。けれども、発進の難しさという点では、誰もが楽しめるクルマというわけではありませんでした。
「もし市販のクルマでこんな走りを達成しつつ、イージーなスタートができたのなら、もっと走ることを楽しめる人たちが増えるのではないか」そのレーシングカーに乗って以来、そんな思いが私の心の中に常にあったんです。

ロックアップクラッチでMTのようなダイレクト感を創出
ATの特性で「発進時の、ストールトルクを使ったイージー トゥ スタート」なところを生かせるな、と思ったんです。けれど、ATでは走り出した時に、アクセルオンする瞬間のトルクコンバーターのスリップがやっぱり気になる。
前々から、ATのロックアップクラッチを使えば伝達効率が上がるので、MTのようなスムーズなつなぎで走りを再現できるんじゃないかと思っていたんです。ロックアップクラッチが導入された当時に「これ、やれないかな?」とエンジニアに相談したら、「そんなことをしたら、ロックアップクラッチがもたないし、油圧制御が追いつかない」って言われてしまった (笑) 。そもそも、ATのロックアップクラッチというのは燃費向上のために取り入れられたものですからね。
けれど、IS F企画の段階では、LS用に開発したミッションであれば、大トルクに対応して油圧制御も改善されて、ハード的には使用可能なところまできていたんです。だから、レクサスだからこそ、「できるんじゃないか」という話になったんですよ。今までスポーツ走行からATをイメージすることってなかったでしょう?だから、「それをひっくり返してやろう!」と思ったんです。
IS Fは、ノーマルモードのDポジションでは滑らかな変速で快適な走行、サーキットでのスポーツ走行まで想定したMポジションでは、アクセル操作に対するダイレクト感と変速レスポンスを体感できる本格的なスポーツドライビングという二面性を持っています。私たちが目指したのは、従来のAT制御の概念を打破し、ATの特性を生かしつつレーシングカーのような走りを実現するクルマでした。
このIS Fというクルマは、クルマを開発するエンジニアなら誰でも考える、「自分が本当に欲しいと思えるクルマを創りたい」を「実際に創ってしまった」と言うことなのです。
IS Fの開発は、プロジェクトのスタート承認を得ることから始めました。ですから、プロジェクトの承認にたどり着くまでにも、いろいろと困難がありました。

いままで経験したことのない未体験ゾーンでの開発課題の連続
IS F開発は最初、いってしまえば、私の想いの具現化から始まりました。考えているだけでは面白いもの、個性的なものは理解してはもらえないと、もう一人のエンジニアとたった二人で、楽しく走れるクルマってこんなクルマかなと、実際に製作してアピールを始めてみたのがきっかけなんです。
2003年の初めから正式に提案活動を開始して、その暮れから設計を始めました。先代のIS300をベースに、「一番でかいエンジンは?」ってTRDにお願いして、レース用の5.2L V8エンジンブロックを入手し、強引にエンジンルームに搭載した試作車が、2004年始めに完成しました。内・外装もこだわってカーボンを沢山使ったりして、全てに手をいれたので、実際には売れそうにない高価なクルマができましたよ (笑) 。このクルマは簡単に250km/hを超えるようなクルマですからね。実際にサーキット等でテストを繰り返していくと、今までに経験したことがないような課題や、こんなはずではなかったといった事態が山ほど発生する、未体験ゾーンに飛び込んでしまいました。
例えば、空力の開発ひとつとってみても、IS Fでは空気抵抗低減しながら最適なダウンフォースを獲得するために、表面だけではわからない工夫をいろいろと凝らしています。
エンジンアンダーカバーには、超高速域でのドライビング時には200kgを越える負荷がかかりますからね。普通の素材では変形してしまって、特性が変わってしまうので、素材にレーシングカーの外板で使用される軽量・高剛性のグラスファイバーを混ぜて強度を向上したりしているんです。
リアスポイラーも専用で、最後の切り上げの角のアールをぴんぴんに仕上げることによって空力をあげるといった、かなり細かいところまで空力を練ったりしています。デザインとの一体感を追求してリアバンパーの下の出口のところに空力パーツを追加するなど、ほかにもこだわったポイントがたくさんあります。
例えば、フロントバンパーにはサーキットでの連続走行を視野に入れた耐フェード対策として、ブレーキの冷却性を高める工夫をしています。ぜひじっくり見てほしいですね。
このクルマに、周囲の人間に乗ってもらうと、「もっといいクルマにしよう!」とだんだん盛り上がってきて、ひとつのプロジェクトにまでなってきた。というのも、各部門のエンジニアたちも乗ってしまうと、やっぱりクルマ好きな人が多いから、本気で協力してくれるんですよね。

役員を巻き込んでプロジェクトが本格始動
次のステップとして、プロジェクトの正式な承認をもらうために、役員にも乗ってもらおうと、試乗会へクルマを持ち込むことにしたんです。役員からも「今までのクルマと違っていて、おもしろい」という反応は、直にかえってきました。でも、「開発をOKすることとは別だよ」って言うおまけもついてましたけど (笑) 。
でも、何より、クルマから降りたときにみんなにこにこしていたんです。それって、一番大切なことですよね。クルマが好きな人は、走りが楽しめるクルマに乗れば自然に口元がほころぶし、気持ちがうきうきする。「よし!って手応えを感じました。」プロジェクトのGOサインが出ていない状態でしたが、試乗会では多くの試乗車の中で常に、試乗人数ナンバーワンでしたよ。
そうして試乗会を重ねるごとに役員からの認知度が上がって、「もっとこうしよう」「まだまだ良くなる」と発破をかけてもらえるまでになっていった。改良した試作車を製作して試乗会に出す様になるころには、試乗する役員の列ができて試作車が一台では足りなくなり、もう一台製作したほどでした。
そうしてだんだん周りに認めてもらった、というか認めさせるような雰囲気づくりに励んでいたわけです (笑) 。それが奏功して、最終的なトップ判断も、どさくさに紛れて通してもらった感じです (笑) 。
前回お話したブレーキの冷却性を高める工夫ですが、フロントブレーキはフォグランプ横の専用のブレーキエアダクトから空気を送り込むことで、効率よく冷却性を高めています。
このエアダクトの開口面積はISの約3倍で、大人の拳が入るくらい大きいんですよ。実車でぜひ確認してみてくださいね。
まず東富士のテストコースだけでなく、
富士スピードウェイをホームコースとして選定
「クルマの素性は走った“道”で決まる」と思います。
IS Fにとって、ホームコースに富士スピードウェイ (FSW) を追加するという意味は大変大きいですね。どういう素性のクルマに仕上がるのかは、どういうシチュエーションで熟成してきたクルマか、ということが重要だと思うんです。つまり、ホームコースでの熟成のプロセス、そのクルマの走ってきた「道」で決まる、と思っています。IS Fの「F」は、FSW・東富士テストコースの「F」なんです。
FSWでの走り込みは、今までのテストコースとは違う環境での熟成ですから、従来にない課題も多く見つけられることもあって、最も重要視してきました。まずひとつのサーキットを走りこむことで多くの課題を克服し、そのクルマのポテンシャルを極限で熟成させることになります。あとは、「課外授業」のように、走りのパターン、それこそ「道」を変化させていけばいいのですから。

走行データを一から解析して造り上げたサスペンション
IS Fはサーキットだけでなく、いろいろなシチュエーションでテストし、「多くの人に楽しんでもらえるクルマ」を目指しています。FSWだけでなく、世界各地のサーキットで無理難題を克服していますし、テストドライバーだけでなく、エンジニア自らも走っていますから、「限られた人だけじゃなくて、多くの人に楽しんでもらいたい」ことを確認しながら開発してきたとも思っています。
たとえばサーキット走行に合わせた硬めのサスペンション設定では、街中を走行したときに乗り心地が悪くなってしまう。けれども、サーキット走行では、高速・高Gであってもタイヤが路面を離れることがない、高い路面追随性を持つ必要があります。サスペンションを硬くすることだけでなく、高速・高Gでも粘り強くグリップする柔軟な走行性能を造り上げるために、基本設計はもとより、サスペンションの間接にあたるブッシュ特性においてもひとつひとつ煮詰めていって、すべて新設計しています。
この為にテスト走行では、サーキットでより正確な車両挙動を把握するために、GTレースで使用しているデータロガーで走行データをモニタリングしています。もちろんサーキット走行と街中走行ではタイヤに求められる性能も違ってきますから、相反する性能を両立させるためにIS F専用の扁平タイヤも新開発しています。ホイールは鍛造アルミホイールで軽量化を図っていますし、鍛造でしかできないデザインに作り込んでいます。空力特性を高めるために工夫もしているんですよ。何だと思いますか?これは写真だけでは判り辛いので、ぜひ実物をじっくり見てほしいですね。

「仕事と思ったら出来なかった」ハードな開発
IS Fは企画提案の成り立ちからも分かるように、いってみれば「特別なスタート」をしたクルマですから、メインのプロジェクトの様に多くのメンバーではなく、小さなチームをベースに開発してきました。
また、IS Fでは、今までと違った新しい協力体制での開発も行っています。例えば、エンジンとミッションの統合制御の開発では、普通のプロジェクトであれば別々に開発を進めるところを、エンジン担当者とミッション担当者が一緒に試作車に試乗して調整していった。他のプロジェクトでは、まず見られない光景でしょうね。
開発当初は、特に人数も少なくハードワークの連続でした。IS Fはサーキット走行も想定していましたから、それに見合う信頼性を確立しなければなりませんでした。200km/hオーバーの超高速域でクルマを自在にコントロールできる足回りやブレーキの耐久性、加減速G、横Gにおけるオイルや燃料供給への影響など、一般の道では考えられない特殊な環境下での評価を繰り返しました。
前例がなく、初めて挑戦するようなことばかりで、余計に負担は大きかったですね。エンジニアのひとりがしみじみ言ったものです。「仕事と思ったら、ここまでやってない」と。けれども、そんなハードな開発にも、ありがたいことに、みんな仕事というよりは遊び?の延長で関わってくれた。それは実に効率のいい仕事だということも解りました。好きなことなら、放っておいても仕事してくれますからね (笑) 。
前回お話したホイールの工夫ですが、空力性能を高めるためにフィンは空気のかき出し方向 (進行方向とは逆向き) に向いており、左右非対称になっています。レクサス初の鍛造アルミホイール採用により、剛性と軽量化、プレミアムスポーツに
ふさわしい意匠、そして複雑な面構成を追求することができました。3次元曲面を持つ10本のスポークホイールは、繊細な鍛造技術だから再現できたものです。前後左右違うデザインになっているので、ぜひ実物をじっくり見てほしいですね。

IS Fなら誰でも走りの「瞬間」を楽しめる
アクセルを踏んだ瞬間にGが感じられること、コーナーでハンドルを切った瞬間にクルマの挙動が変わることなど、ドライビングのあらゆるシーンで、クルマからのレスポンスがダイレクトに感じられる。ドライバーがクルマを操る楽しさ。それを現わすキーワードが「瞬感」です。その「瞬感」が積み重なって、ドライバーとクルマの一体感を生み出し、快適なドライビングフィールが体感できる。
快感の感じ方は、人によって、スキルによっても異なると思います。IS Fでは、「瞬感」を得たいときに得られるようにしたいと考え、開発しています。それぞれの楽しみ方で、「瞬感」を楽しんで欲しいですね。
クルマとの一体感を味わえるのは運転者だけではありません。せっかくこれだけの性能、実力を持ったクルマです。もっとスポーツカーっぽいスタイリングを期待する方もいると思うんです。そこを敢えて、4ドアの「箱」、サルーン・スタイルを採用したのには、理由があります。サーキットだけでなく、市街地の移動の時にも。また、ひとりの時だけでなく、同乗者がいても楽しんでもらいたい。もっと言うと同乗者にも一緒に楽しんで欲しいと思ったんです。それが以前お話した、同乗者も楽しめる音創りにつながっています。
もう一つは、個人的にも、おとなしい顔をしてスポーツカーを軽々抜いていくみたいな感じが、大人の子供心をくすぐる感じで好きだからです (笑) 。一体感という意味では、シートにもこだわっています。クルマと一体になる重要な部分ですから、しっかり体を包み込んで、でも窮屈ではなく、一日中乗っていても疲れないシートができたと思いますよ。IS Fのシートは、従来のような腰部分のサポートではなく、ある部分を支えるような形になっています。どこをサポートする形状になっていると思いますか?シートをじっくり見てみてくださいね。リヤシートも、ショルダーパッドを拡大して、バケット形状で体がすっぽり収まるようになっているので高速走行でも快適です。後席の人も安定していますから、運転手はいつでも気兼ねなく「瞬感」を楽しめると思います。
シートに関しては内装も細部までこだわっているので、ぜひじっくりチェックしてください。昔から言う「ひつじの皮をかぶった狼」というような秘めた実力って、オトナの感触があっていい。そう思いませんか?IS Fでは、たとえ運転ができなくても走るクルマの「瞬感」を存分に味わうことができます。ぜひ誰かを乗せて走ってもらいたいですね。

ぜひ実際に乗ってもらって、共感してもらいたい
プロジェクトが形になり出したころ、私が思い描いた「理想のクルマ」の極限として、私が「戦車」と呼ぶクルマをつくりました。ツーリングカーの最高峰レースのひとつとして知られるドイツのツーリングカー選手権があるのですが、「戦車」のうちの一台は、そのレースをイメージした100%レーシングカーです。運転できない人のために助手席のシートを付けて、設計者やハンドリング担当者に「興味本位でいいから乗ってみろ」と言って、私がレーシングカーに乗って感じた「衝撃」を共有していきました。
IS Fのテスト走行では、テストドライバーだけじゃなく、設計者やエンジニア、役員に何度も試乗してもらって、本当に走っていて楽しいクルマかどうかを検証していく作業を重ねています。時にはサーキットにいたケータリングの女性にまで乗ってもらって意見を聞きましたからね (笑) 。そうしてプロジェクトが形になる前から完成に至るまで、たくさんの人に試乗してもらって積み上げてきたものが、IS Fで形になっている。これが開発していく上での一番の評価材料になったかもしれません。
10月4日に行われた記者試乗会でも、試乗した方がクルマから降りてきたときに笑顔がこぼれるほど楽しんでいただけた。完成度が実感できてうれしかったですね。IS F開発は、たった二人の人間から始まったプロジェクトでした。最初は独りよがりならぬ、二人よがりなプロジェクトでしたから、だめになりそうな瞬間は何度もあったし、そのままお蔵入りの可能性だって十分にありました。けれども、こうしてみなさんにお披露目することができた。
それは、「レーシングカーのように走りを楽しめるクルマを、例えばレーサーのような高い運転技術を持った限られた人だけじゃなく、多くの人に楽しんでもらいたい」という、私がIS Fに課した無理難題ともいうようなテーマが、きちんと達成できたからだと思います。乗ってもらえば、楽しさがわかる。そういうクルマに仕上げることができたと思います。

前回お話ししたIS Fのシート形状ですが、従来のような腰部分のサポートではなく、脇を支えるような形になっています。バケット形状は肩の部分が窮屈になってしまうため、腰ではなく脇をサポートすることでバランスを調整しています。脇を支えるのは、新しいスポーツシートの形状になるでしょうね。シートは、内装のデザインについても、細部まで私のこだわりがあります。
ドアを開けた時にしか見えないシートのサイド部分には、「F」エンブレムを刺繍しているんですよ。試乗の時にはぜひ確かめてほしいですね。聴かせたい音が響く様な仕掛けがしてあるんです。それをあえてやった理由は、アイドリング域での重低音を発生させることで迫力を増すためなんですよ。運転の楽しみを全身で体感してもらうために、音だけでなく、ATにもこだわりがあります。
超高速走行に耐えられる空力特性を考えたデザイン意匠
私は、スポーツカーは多少フロントノーズが長い方がかっこいいと思っているんです。サーキットでも走れるように、エンジン・ブレーキ冷却のために大きなパーツをフロント部分に入れなければなりませんし、空力的にもその方が有利なので、フロントをベースになったISより75mm伸ばしました。
IS Fは、サーキットも走ることを前提とした時速300km/hの超高速走域におよぶクルマですから、空力特性に関しては細かいところまで練っていますね。機能と見た目のぶつかり合いの中で、生まれてきたデザインなんです。空力に関しては、効果的なダウンフォースを得るために、部位ごとに必要なダウンフォース量を算出して、細部にわたる風洞試験とシミュレーション解析を行ってボディのデザインを開発していきました。アンダーカバーもボディの一番後ろにつくカバーは専用のディフューザー形状にしたり、リヤバンパー下に小さな整流板がついていたりと、各部が高速走行をにらんだ専用設計です。
他にも、エンジンアンダーカバーの素材や、バンパー一体型のフロントスポイラー、リヤスポイラーなど、IS F独自のパーツも多く取り入れています。
プロジェクトメンバーのこだわりで生まれた
一体式ロッカーモール
空力特性だけにとらわれるのではなく、あくまでデザインの中に意匠として工夫されたところも生かされるようにしています。
IS Fのサイド部分を見てください。ロッカーモールがセンターからリヤまで全部一体式になっているんですが、これはデザイナーがこだわったデザイン意匠を実現するために、生産技術・製造部門の人間も含めプロジェクトメンバーが頑張って創り上げたものです。生産効率を考えると普通ではあんな大きな一体式ロッカーモールは作りません。フェンダーの所、ロッカーの所と切ってしまうところを一体式にしたのは、流れるようなフェンダーからロッカーモールの意匠を実現するためです。特にドアの下のひねりのラインがきれいに出ているのは、一体でできているからこそですね。
そうしてデザイナーやプロジェクトメンバーから意見をぶつけてもらって、みんなの理想が形になっていく過程が、私はとても面白いと思うんです。メンバーのこだわりは、フロントグリルの部分にも表れています。IS F独自のメッシュ形状にしていますが、ここには、ある文字がさりげなく潜んでいるんです。ぜひ実車に近づいてチェックしてくださいね。

前回お話したフロントグリルの部分のメッシュ形状は、実はレクサスの「L」をモチーフにしたデザインになっているんです。
ちなみにメッシュ間の隙間は、上に向かうほど広がっていく意匠としています。ぜひ実車でじっくり確かめてみてくださいね。
気持ちのいい音の楽譜はできている、あとはその音をどうクルマに演奏させるか
皆さんはスポーツカーに乗っているとき、どんな「音」を期待しますか?私は振動騒音開発に携わっていたので、音にはとてもこだわりがあります。エンジンをスタートさせた瞬間から、低く重厚に響く「排気音」、アクセルを踏むごとに楽しくなるような「吸気音」、エンジン回転が自分の身体に伝わってくるような「メカニカルサウンド」。振動騒音の開発をしていたとき、そうしたクルマを操る上での楽しみを増幅させる「音」に関しても、仲間内でいろいろと分析してきました。
また、レクサスの伝統ともいえる静粛性を生み出す“音のクリーニング”を行うことで、どの回転域であれば音がきれいに聞こえるか、といったスタディが土台としてありました。「排気音」は、排気管の共鳴で生み出されるから常に聞くことができる。「吸気音」はアクセル操作にリニアに感じられる。「メカニカルサウンド」はエンジン回転が高ければ高いほど、エンジンの回転変動が減ってきれいに聞こえるから、高いところだけ聞かせるのが一番いい。
そうした音に関するスタディがバックグラウンドにあったので、あとはその「音」をIS Fでどうやって創り出していくか、クルマにどう演奏してもらうかが課題となりました。IS Fでは、それぞれの音の一番いいところを3つ組み合わせて、走り出しと低速域では「排気音」を、加速する時にはアクセルに反応するように「吸気音」を、高速域では「メカニカルサウンド」を聞かせる、という三段階のチューニングを行っています。タコメーターを見ないで、音だけでエンジンがどこの回転で走っているかが分かるほど、音にはこだわっていますよ。
“F”サウンドで、語りかけてくる。
走行シチュエーションによって変化する心地よいサウンドを生み出すため、サウンドシミュレーターを搭載した試作車でサーキット走行を繰り返して、サウンド特性を解析していきました。
まずは低速域での「排気音」。一番大きな共鳴というのは、排気管の長さで決まるので、アクセルを踏まなくても、一定した音色が出せます。ビール瓶の口をフーッと吹いているときに出る音と同じ原理です。低速域でアクセルを踏んでいなくても、排気音で気持ちいい音が鳴っていれば、ハイパフォーマンスカーに乗っているようなイメージが作れます。しかし、アクセルを踏んだ時にも排気音を聞かせるのでは変化が少ない。
そこで登場するのが「吸気音」です。吸気系は、排気系と異なり長さを変化させることが簡単にできるので、音色が変えやすいんですね。また、アクセルを踏んで吸気量が増えれば音も大きくなって、緩めれば音が小さくなるという変化もつけやすいので、アクセルに対してリニアに感じられる音作りができます。そこで、2つの吸気口を設けることで吸気量と吸気系の長さが切り替えられるデュアルインテークを開発しました。高速域で従来のプライマリポートに加えて、セカンダリポートを開くことで、音色・音量の切り替えポイントを創っています。
- ※
- 実際のディフューザーはバンパーと一体になります。
音に変化が起こるのは、通常加速以上を得たいと感じるポイントを想定した3,600回転。一番加速したいときに、ドライバーをその気にさせる200~300Hzくらいの「パワー感や軽快感を感じる音」の周波数をつくることで、まるでクルマが語りかけてくるような感覚を感じられるんです。吸気量が変わりますから、エンジントルク特性も切り替わり、伸び感を感じることができます。
エンジンの「メカニカルサウンド」は、クランクシャフトの回転部品やピストンなどの摺動部品のフリクションの低減、
また、シフトダウン時にも操る楽しさを感じていただけるポイントを創っています。私のこだわりと、これまでのスタディが生かされたIS Fならではのサウンド。ぜひ試乗で実際に体感して、確かめてくださいね。

前回、シフトダウンで音が生きるポイントをつくったという話をしましたが、ブレーキングしながらシフトダウンをしたとき、ヒール&トゥーがうまく決まったシフトダウンをしているように、エンジンを自動でブリッピングさせています。
シフトダウン操作を速くするだけではなく、サウンドによってシフトダウンの操作を楽しいものにしているんですよ。試乗のときには、そうした「音」を意識してもらうと、より楽しめると思います。
アクセルを踏んだ瞬間からタイヤが反応するまでが“レスポンス”
クルマを操作する上での“レスポンス”というと、エンジンの回転数がスムーズに上がっていく、というイメージを持つ方が多いですよね。
アクセルを踏んだ瞬間にエンジンの回転数が上がるだけではなく、タイヤがクッと反応するまでが“レスポンス”だと私は思います。エンジンは当然のこと、ミッションもダイレクトにつなげる必要がありました。Vol.02でもお話したように、ATのロックアップクラッチを使うことで、MTのようなダイレクト感を、ATをベースにして出せないかと考えていました。スタート時は、ATならではの電子制御でミスなくクルマの力を最大限に引き出して走り出せる。スタートした後はロックアップすることによってトルクコンバーターのスリップによるロスを無くことのできる、新しいトランスミッションを作ろうと考えました。
あとは、その制御をどう開発していくかという課題が残りました。ミッションだけを考えていてもダメなので、ミッション担当がエンジン担当と一緒に試作車でテスト走行を繰り返しながら、一つのチームとして開発を進めていきました。そうして、世界最速レベルの0.1秒*の変速を可能にし、走る楽しさを体感できるギアボックスが生まれたんです。
「操作している」ことを体感できるシフト感がクルマとの
一体感を高める
どれほど心を振るわせる音が鳴っていても、音だけではクルマとの一体感は得られません。コンピュータゲームと同じになってしまいますからね。
IS Fは、速く走るためではなく、走りを楽しむためのクルマですから、変速スピードの向上だけでなく、「操作している」ことが体感できるシフト感も必要であると私は考えました。ゆったりと街中を走る時には滑らかなシフト制御、サーキット走行などスポーティーな走りを楽しむ時にはリズムを取れるような変速ショックを感じさせたい。そのため、開発の段階で、トルクセンサーを搭載し「気持ちよい変速ショック」を実現するための評価テストを実施して感性を数値化する作業を重ねました。Dポジションはあくまでもスムーズに、Mポジションでは「操作している」ダイレクト感が得られるような、2つの顔を持ったトランスミッションが完成しました。
ほかにも、「レスポンス」を高めるために、サージタンクを大幅に小さくして砂型でないと成型できないような構造で吸気の流れの効率を高めるなど、細かいところまでこだわっています。また、リニアな操舵フィールが味わえるように、ステアリングホイールやシフトノブにも、指先の掛かりやグリップ感を向上させる加工をしています。どんな加工だと思いますか?試乗したときには、手触りなども含め、ぜひ確かめてみてくださいね。
- *
- 0.1秒の変速時間は、最速の場合です。

前回お話したステアリングホイールやシフトノブの加工ですが、操作性を向上させるために、本当に細かいところまでこだわりました。ステアリングホイール、シフトノブの本革には滑りにくいくぼみ加工のディンプルを施してグリップ感を向上させました。 また、ステアリングホイールの縫製にはかがり縫いを採用するとともに、
本革の継ぎ目を下端のみとしました。それにより長距離のドライビングでも、指先の引っかかり感や、グリップ感の低下からストレスを感じないようにしています。指先を通じて感じるクルマとの一体感を、ぜひ試乗で確かめてほしいですね。

伸び感を持つエンジンの特性を生み出すためのスタディ
伸び感は、単にエンジンパワーを上げるだけでは生まれません。車をグッと加速させ、トルクをいかに出すかが大切です。たとえばトルクカーブがフラットな特性を持つエンジンの場合、低速からトルク感を感じることはできます。しかし、トルクがフラットということは、加速Gもフラットということです。そのようなエンジンの場合、車速の上昇とのリニア感が少なく、自分でコントロールしているという体感が得られなくなってしまいます。アクセルを踏んで車速が上がっても、トルクの盛り上がりがなく、頭打ちになるように感じるのです。
トルク特性を検証するスタディとして、何十人ものスタッフが集まって、テストコースでいろいろなエンジンを積んだ何十台ものクルマを乗り比べました。そして、伸び感という感性を数値化し、開発スタッフ全員で共有できる一つの方針を決めて
いくという作業を繰り返しました。散々みんなで議論した結果、「伸び感のあるエンジンは、高回転で一気に盛り上がるトルク特性をつくりだしたものだ」という方針が決まり、そのトルク特性を生みだすためのパワー特性も決まり、開発が進んでいきました。例えば、フロントバンパーにはサーキットでの連続走行を視野に入れた耐フェード対策として、ブレーキの冷却性を高める工夫をしています。ぜひじっくり見てほしいですね。
このクルマに、周囲の人間に乗ってもらうと、「もっといいクルマにしよう!」とだんだん盛り上がってきて、ひとつのプロジェクトにまでなってきた。というのも、各部門のエンジニアたちも乗ってしまうと、やっぱりクルマ好きな人が多いから、本気で協力してくれるんですよね。
トルクの変化を創るためにデュアルインテーク
トルクの変化を創るために、吸気制御については、街中の走行での微妙な吸気コントロールと、サーキット走行に必要なパワーを生み出すための大量の吸気量を両立させることも考慮し、吸気口の数そのものを変化させる方法を考えました。それがIS Fで採用したデュアルインテークです。低中速域ではプライマリポートのみを開き、高速域ではプライマリとセカンダリポートを開くことで、エンジンに送る空気の量が切り替わり、トルクも変化します。
トルクピークの設定も重要でした。そこでサーキットと街中で使用される回転域から、閉開ポイントをシュミレーションして、トルクのピークとパワーのピークを研究した結果、トルクピーク5200r.p.m.、パワーピークを6600r.p.m.に設定しました。トルクのピークとパワーのピークが近いので、ググッと引っ張っていく感覚がより高まり、伸び感を感じさせます。タコメーターの針が上がっていくにしたがって、パワーが盛り上がって、それが頭打ちになるのではなく、「まだまだこの上にいきそうだよな」と予感を残しながらシフトアップしていくものになったと思います。
また、IS Fはサーキット走行を前提としたクルマなので、高速コーナーなどで強烈な横Gが発生した場合に、エンジンオイルがシリンダーヘッド回りに滞留し、オイルパンに戻りにくくなるという問題が発生しました。そこで常にエンジンの潤滑性を確保するために、常時作動させるスカベンジポンプを新開発し、確実なオイルの潤滑を実現しています。
このオイルと同じく、ガソリンも強い横Gにより影響を受けます。ガソリンが偏り、ガス欠のような症状が起こるのです。この現象を防ぐために、フェールタンクにも「ある工夫」をしています。どんな工夫なのか、実車を見ながら想像してみてくださいね。

前回お話したフェールタンクですが、IS Fではフェールタンクにサブタンクを設置すると共に、ガソリンの偏りに対応するオフセットポンプを採用。 強烈な横Gがかかってタンク内のガソリンが偏ったときでも、必要量のガソリンを供給し続けられるようにしました。
高速走行だからシャシーパフォーマンスが重要なポイント
サーキットでの高速走行もできるクルマですから、高い路面追従性を持つ必要がありました。路面追従性をつかさどるのがサスペンションとタイヤです。
まず、サスペンションは、レーシングカーの足回りのセッティングをするときと同様にセンサーを付けて、「足回りを構成する部品一つひとつがどのように動いているのか」という検証を一からやり直しています。そうして、本当に動かさなければいけない部品をどうやって動かすかを1個ずつ徹底解析し、ブッシュの特性までも新設計しました。サスペンションに関しては、レーシングドライバーに“Fantastic!”と言われたほどの完成度です。
次に、タイヤです。街中での走行とサーキット走行では、タイヤに求められる性能が異なります。接地面をどう作るかというのが重要なポイントでしたね。ホイールの軽量化も重要なアイテムです。高価ですが軽量で高剛性のアルミ鍛造にすることで1輪当たり4~5㎏の軽量化も実現しています。これにより、ばね上重量を100kg以上軽量したのと同じ効果が得られているとさえ言われていますから、運動性能の向上に大きく貢献しています。

「安全性」と「操る楽しさ」の両立
スポーツモデルとして、「安全性」と「操る楽しさ」をどうやって両立していくかというのは重要なポイントだと思います。安全性を高めるために、操る楽しさが阻害されてはいけないし、逆に操る楽しさだけを追求して、安全性が保証されないのでは話になりません。
両方を追求した結果、それを両立させるSportVDIMの開発を進めることになりました。SportVDIMは、路面の変化を予知して、クルマの挙動が崩れる前に制御する「Normalモード」エマージェンシー用の「OFFモード」に加え、よりドライバーの感性にあわせた制御を介入させる「Sportモード」の3モード。700パターンに及ぶ車両制御データを収集して、ドライバーにより異なる動作や、その時の車両の状態を分析して開発を進めました。特に高いスキルを持ったドライバーのために設定したSportモードは、レーシングドライバーの走行テストでも、OFFモード時以上のタイムを記録しているほどです。サーキット走行でも、より安全に限界性能を引き出した走りを堪能することができます。
安全性の向上にはブレーキも重要なファクターです。IS Fでは街中の低速走行でも、ハードなブレーキングを繰り返すサーキットでもしっかりと効く制動性能が必要でした。一方で、どの速度域でも減速フィーリングに安心感があることも重要でした。そのため、高摩擦係数でありながら、どの速度域でも自然なフィーリングでブレーキングできるパッドを四輪に採用したほか、そのパッドの性能を引き出せるよう、フロントのブレーキキャリパーを対向6ポッドのモノブロックを採用しました。
そのほかにもブレーキペダルのペダル比も変えるなど、トータルな視点で細かいところまでチューニングしています。そこまでやって、初めて高性能のものができるのです。また、冷却性を上げるための設計も随所に施しています。フロントの冷却ダクトをリンゴが入る大きさにしたほどです。
試乗してはじめてわかる “IS Fを操る楽しさ”
以前にもお話したように、IS Fはベンチマークとしたクルマがありません。今までの基準どおりにつくっていたら、今までのクルマを超えるものは創れませんからね。私とプロジェクトメンバーが一からスタディを積み上げ創り上げてきたものですから、IS F開発は新しい問題と発見が山積みでした。しかし、私が昔から創りたいと望んでいたクルマを、皆さんにお届けすることができたと思います。
IS Fは、「操ることを楽しむ」ためのクルマです。私がどれほど言葉を尽くすよりも、実際に乗ってもらうのが一番だと考えています。街中での走行はもちろん、レーシングドライバーも驚くような性能を持っていますから、ぜひサーキットでの走行も体験してもらいたいですね。サーキット走行でしか体感できない世界に、IS Fは連れて行ってくれるにちがいありません。
ぜひご試乗で、あなただけの「操る楽しさ」を見つけてください。
