大企業に先駆けて自転車の設計にCADシステムを導入
かつて東京都荒川区が「自転車産業」の街だったことを知っている人はどれくらいいるだろうか? 一般用自転車は約25品目のパーツからつくられておりパーツごとに工場も異なるため、必然的に一つのエリアにさまざまなパーツの工場が集中することとなる。関東においてそのエリアとなったのが荒川区だった。全盛期を迎えた昭和30年代には300社近い企業が軒を連ねており、大阪の堺市と並んで全国最大級の規模を誇っていた。
ただし、それは「かつて」の話である。その後中国製の安価な自転車が流入してきたことで徐々に企業の数が減っていき、今では「自転車産業」と呼べないほどの規模まで産業は縮小してしまった。しかし、過酷な状況においても実直に自転車をつくり続けている企業は今なおある。マツダ自転車工場は、そんな企業のうちの一つだ。
1951年に創業したマツダ自転車工場は当初新聞配達や郵便配達のための業務用自転車を主として製造していたが、時代のあおりを受け徐々に業績が下がっていった。そこで2代目社長の松田志行氏が目をつけたのが「オーダーメイド」という概念だった。
ただし、それは「かつて」の話である。その後中国製の安価な自転車が流入してきたことで徐々に企業の数が減っていき、今では「自転車産業」と呼べないほどの規模まで産業は縮小してしまった。しかし、過酷な状況においても実直に自転車をつくり続けている企業は今なおある。マツダ自転車工場は、そんな企業のうちの一つだ。
1951年に創業したマツダ自転車工場は当初新聞配達や郵便配達のための業務用自転車を主として製造していたが、時代のあおりを受け徐々に業績が下がっていった。そこで2代目社長の松田志行氏が目をつけたのが「オーダーメイド」という概念だった。
「サイクルショーを訪れたときにオーダーメイドの自転車が話題になっているのを耳にしたんです。そこで話題になっている職人の名前を調べて、次の週にはその人の元を訪ねていましたね」と松田氏は当時を振り返る。こうして松田氏は、修行の末オーダーメイド自転車の製造に着手した。その後立ち上げたのが現在まで続いているブランド、「LEVEL」だ。
東京の下町で何十年も前からハンドメイドで自転車をつくっていると聞いて、いかにも古風で頑固な職人の姿を思い浮かべただろうか。もちろん、それが間違っているわけではないかもしれない。しかし、マツダ自転車工場は貪欲に新たなテクノロジーを取り入れようとしてきた企業でもある。現に、名だたる大企業に先駆け、自転車の設計にCADシステムを導入したのはマツダ自転車工場なのだから。
東京の下町で何十年も前からハンドメイドで自転車をつくっていると聞いて、いかにも古風で頑固な職人の姿を思い浮かべただろうか。もちろん、それが間違っているわけではないかもしれない。しかし、マツダ自転車工場は貪欲に新たなテクノロジーを取り入れようとしてきた企業でもある。現に、名だたる大企業に先駆け、自転車の設計にCADシステムを導入したのはマツダ自転車工場なのだから。
手作業が当たり前の世界に機械による設計を持ち込むことは想像以上の困難を生んだ。「うちの会社は新参者でしたから、周りの企業からの批判はありました。あいつらは腕が悪いから機械に頼っているんだ、なんてことを言われたり」と松田氏は当時を振り返る。こうした困難を乗り越えて1984年の大阪サイクルショーで発表した「オール内蔵レーサー」は下馬評から一転、極めて高い評価を浴び、悪い噂を一蹴してみせた。
高い精度から100人以上の競輪選手に愛用されるメーカーに
その後、LEVELはオーダーメイド自転車ブランドとしてその名を轟かせてゆくことになる。現在はフルオーダーにセミオーダー、イージーオーダーを加えた計3種類の製品が用意されている。
フルオーダーは主に競輪選手向けのもので、体格や体力、能力に合わせ0.1ミリ単位で細かく寸法を調整してゆく。セミオーダーはより一般向けのモデルで、体型と用途に合わせていくつかのフレームサイズから最適なものを選ぶもの。イージーオーダーは完成品だが、その中でも膝が痛くて普通の自転車に乗れない高齢者向けのモデルは、痛い方のクランク部品を替えてペダルを回しても痛くないようにすることにより、自転車に乗れるようにしたものだという。
フルオーダーは主に競輪選手向けのもので、体格や体力、能力に合わせ0.1ミリ単位で細かく寸法を調整してゆく。セミオーダーはより一般向けのモデルで、体型と用途に合わせていくつかのフレームサイズから最適なものを選ぶもの。イージーオーダーは完成品だが、その中でも膝が痛くて普通の自転車に乗れない高齢者向けのモデルは、痛い方のクランク部品を替えてペダルを回しても痛くないようにすることにより、自転車に乗れるようにしたものだという。
言うまでもなく、最も精度が高いのがフルオーダーモデルだ。フルオーダーの製作にあたっては、単なるサイズ感だけでなくフレームの剛性や乗り味に至るまで考慮している。まさにフレームと職人と「対話」を重ねるようにして、「理想のフレーム」を目指すのである。
現在では、100人以上の競輪選手がLEVELの自転車を愛用しているのだという。なかにはこれまでに何十台も購入している選手もいるくらいだ。
現在では、100人以上の競輪選手がLEVELの自転車を愛用しているのだという。なかにはこれまでに何十台も購入している選手もいるくらいだ。
競輪用の自転車は極めて高い精度と強度が求められるため認められているメーカーは少ない。そんななかでも多くの競輪選手から信頼されているという事実がLEVELの自転車のクオリティを担保しいるともいえるだろう。いち早く「コンピューターを頼った」この自転車メーカーは、同時にコンピューターが敵わないくらいの精度を叩き出す技術をも兼ね備えているのだ。
自転車づくりにおいて重要なことについて語りながら、松田氏は性能・精度・強度・デザイン・価格・機能を頂点とする六角形のグラフを描き始めた。
自転車づくりにおいて重要なことについて語りながら、松田氏は性能・精度・強度・デザイン・価格・機能を頂点とする六角形のグラフを描き始めた。
「一般的なメーカーが自転車を売る上で何を大切にするかというと、デザインと価格、機能です。一方で、われわれが大切にしているのは精度、強度、性能。真逆なんですよ」。そう松田氏は語る。事業内容自体は「自転車の製造」という点で共通しているが、その実、マツダ自転車工場は全く異なるものをつくっているといえるのかもしれない。
その上で、松田氏は次のように続ける。「精度、強度、性能というのはすべて“目に見えないもの”です。つまり、われわれは目に見えないものを売っている。それは〈満足〉なんですよ」。これは自転車の製造に限らず、すべての「クラフトマンシップ」に通ずるものだといえるだろう。「神は細部に宿る」という言葉があるが、卓越した技術は細部に宿っていき、やがて目に見えない価値になっていく。
取材に対して松田氏は「ほかにもっと面白いことをしてるメーカーはあるんじゃない?」と笑いながら語るが、「でも、一番真面目なのはウチだと思います」と続けた。事実、松田氏は驚くほど真面目で、誠実だ。優れた技術をもちながら決して驕らず、自分たちのつくっているものはアートではなくあくまでも「商品」だと語る。そして労働環境を改善し自身の会社を「普通の企業」にしたいのだと話す。松田氏、そしてマツダ自転車工場に流れるクラフトマンシップとは「真面目さ」である。その真面目さとは現代のクラフトマンシップにとって一つの規範とも呼べるものなのかもしれない。
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