ART / DESIGN

パリでオーダーしたJ.M.WESTONの白い靴

2017.07.26 WED
ART / DESIGN

パリでオーダーしたJ.M.WESTONの白い靴

2017.07.26 WED
パリでオーダーしたJ.M.WESTONの白い靴
パリでオーダーしたJ.M.WESTONの白い靴

1891年から続くフランスの老舗シューズブランド「J.M.WESTON」。中村孝則氏が、2003年に旅の記念としてパリはシャンゼリゼの直営店でオーダーした、当時のJ.M.WESTONでは最先端だったワンピースオックスフォードの魅力を語る。

(読了時間:約3分)

Text by Takanori Nakamura
Photograph by Masahiro Okamura

職人泣かせの白ずくめのカラーをオーダー

この純白の靴は、J.M.WESTONの特注品で、パリのシャンゼリゼにある直営店でオーダーしたものである。その名前の響きから、英国のブランドだと思う人も多いようだが、J.M.WESTONはフランス生まれの靴ブランドである。創業は1891年まで遡るそうだが、なんといってもローファーが有名で、日本でも1980年代後半にはファッション・アイコンのひとつとなっていた。学生時代だった当時、いつかは履いてみたい憧れの靴ブランドの一つだった。

2003年に、縁あってこの靴の工房があるリモージュに取材で訪れ、その帰りにパリのブティックに立ち寄り、旅の記念として購入した。せっかくなら人が持っていない靴がいいと相談したところ、オーダーを勧められたのだ。J.M.WESTONは既存のモデルであれば、色や素材など好みに応じてカスタムオーダーを受けている。素材にもよるが、予算は既製靴の5割増しくらいからだというので、当時最新だった「ワンピースオックスフォード」というモデルをベースに、アッパーは白のカーフでソールは生成りのままでステッチも紐も真っ白という、白ずくめの注文を出した。

白い革靴なんていつ履くんだ、という声も聞こえてきそうだが、なかなかどうして出番は多い。これからの季節であれば、麻やシアサッカー、コードレーンのような素材のスーツやジャケットの足元にぴったりだし、デニムに白いTシャツといったカジュアルな装いに、スニーカー代わりに合わせれば、少し上質な大人の着こなしも演出できるのである。白足袋の時のように、踏まれないような気遣いもいるが、その微かな緊張感が装う気分を盛り上げると思うのである。

もっとも、当時ブティックの担当者は僕の注文を面白がりながらも「職人泣かせのオーダーですよ」と呟いた。ここの靴の製作工程は100以上に及ぶが、各工程の職人たちは白い素材が汚れないように「普段以上に気を使うだろうね」というのである。僕自身も、工房を取材したばかりだから、出来上がった時の感動はひとしおであったし、今もこの靴を履くたびに職人たちに頭がさがる思いなのである。

靴の履き心地が靴底のクオリティに左右されるということを知った旅

J.M.WESTONは、今でもソール作りから全ての工程を自社で行なっているが、そんな靴ブランドは、世界でも数メゾンしかないそうだ。最も特徴的なのは、ソールの革の鞣しの工房を自社で持っていることである。これは靴業界では稀なことで、ソールをクルマのタイヤに例えるならば、自動車メーカーがタイヤメーカーを運営しているようなことなのである。この鞣しの工房は、リモージュ郊外のサン・レオナール・ド・ノブレという小さい町のはずれにあり、200年以上続く欧州最古にして唯一の天然鞣しの工房として、今はJ.M.WESTONの傘下で、同社のすべての靴のソールを作っている。

僕は実際にこの工房も訪れたのだが、皮革(鞣す前のもの)を革(鞣した後のもの)にする工程を、手作業で行なっていた。まるで日本の藍染の工房のような雰囲気である。天然鞣しというだけあり植物由来のタンニン鞣しは、昔ながらの手順で行われ、発酵させたりプレスしたりして長い時間をかけて丁寧に仕上げられているのが印象的であった──。

僕も十数年この靴を履きつづけてようやく実感できるようになったが、最初はこのソールの違いがよく分からなかった。ところが時間が立つほどに足に馴染んできて、今では皮膚の延長のように心地いいのである。クルマの乗り心地がタイヤの良し悪しで変わるように、もしかしたらそれ以上に靴のはき心地が靴底のクオリティに左右されるということを、この旅で知ったのである。

この記事はいかがでしたか?

ご回答いただきありがとうございました。

RECOMMEND

LATEST